イレウス管
入院直後のいろいろな検査が終わって本格的な治療が始まった。食事はおろか、一滴の水分も摂ることはできない。点滴で栄養と水分を補給する。胃液すら腸に降りないように外へ排出しなければならないので、鼻から胃まで管が通された。
口から通すと、喉を通過する際に苦しいため、鼻から通すのだそうだ。管の一方はベッド脇に取り付けられたガラス瓶につながっている。瓶にすぐに黒っぽい緑色の液体がしたたり始めた。その状態で改善が見られるかどうか、一日様子を見ることになった。ところが効果が現れないので、夕刻になって、イレウス管という新たな管を腸に通すことになった。
「できれば使わずに済めばよかたんですけれどね」
大野医師はそう言いながら、胃へ通していた管を抜き、代わりに腸の入り口まで別の管を通した。モニターに映し出された腸の内部を見ながら慎重に行われた。「イレウス」とは―ギリシャ神話の神さまみたいな名前だが―「腸閉塞」という意味だそうだ。直径5ミリくらいの透明の管の先端に小さなスポンジがついている。そのスポンジが曲がりくねった腸内を貫通しながら水分を吸収するとのことだった。管の進み具合は人によって個人差があるが、どちらにしても長期戦になりそうだから焦らずにゆっくり治療しましょうと言われた。
佐々木千賀子『立花隆秘書日記』ポプラ社2003年
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