初めて海を見たとき
「船を造るときは、底から始まるんです。人の体でいえば背骨。その両わきにこう、あばら骨がつくわけ。いま、おたくが触ったところ、そこが舳先、『みよし』といいます。まあ、船の顔みたいなものです」
岩渕棟梁にとって、いま造っている船は、延べ五四九艘目にあたる。気の遠くなるようなこの数字は、六〇年近い歳月と努力のたまものだ。
生まれは唐桑から山を越えた、岩手県大東町大原。山育ちの少年の人生は、初めて海を見たときに決まる。
「小学六年生の遠足で、室根山の上から生まれて初めて海を見て、そりゃ、びっくりしました。山の風景はいつも変わらないのに、海は広くて大きくて、街の向こうに水平線せり上がって見えた。ああ、あんな活気のあるところで働きたいって」
昭和二十二年、十六歳で唐桑の船大工に弟子入り。
船大工●岩渕文雄さん(宮城県唐桑町)五四九艘目に挑む「船大工」という天職『Fole No.46 2006・7』みずほ総合研究所
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