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2007.05.04

どっちの早期教育

「早くから英語を学ばせることが、その子の人生にとって本当にいいかどうかわかりませんよ。時間も有限だし、脳の能力も有限だから、英語に費やす時間や脳の部分が、本来は別のために使うべきものだったのかもしれないでしょう。子供の脳の能力は限りなく伸ばせるなんて言う人もいるけれど、僕は脳の能力にも限界があると思いますよ」

 発言者は、「日本乳児行動発達研究会」の事務局長を務める小西行郎・埼玉医科大学教授である。ポジトロンCTなどによる乳児の脳画像研究から、乳幼児の脳に特定の刺激を与えすぎることは、脳の発達に悪影響を及ぼしかねないと危惧する小西教授は、日本の親を早期教育に駆り立てている価値観そのものに異議を唱える。
「ひとつは、じゃあ早ければ何でもいいのかということなんですよね。なんでそんなに早く早くと子供を急かせるのか。『大器晩成』という言葉は、日本からなくなったんでしょうか。もうひとつは、人間にとって何が幸せなのかという『幸福論』をもっと深めたほうがいいんじゃないかということになるんです。東大を出たら幸せなのか、金持ちになったら幸せなのか、そうじゃないことはバブルがはじけてからのいろんな出来事で、みんなわかってきたわけでしょう。僕は、いまみたいな早期教育よりも、愛されているという安心感とか、子供が好奇心を伸ばせる環境を与えてやることのほうがずっと大事だと思いますよ。肝心なのは、天才に育てるんじゃなくて、『幸せな人』に育てるということですよね」

 私たちは「幸せ」という言葉を口にするのに何か気恥ずかしさを覚えるようになっているけれど、「幸福論」は第七章の「脳とアルツハイマー病」にも深く関わるテーマなのである。
 今回の取材で私は初めて知ったのだが、ソニーの井深大氏が早期教育に傾倒していったのは、知的障害児のわが子に何もしてやれなかったという無念さからであった。その井深氏も、亡くなる少し前には、知的な早期教育よりも心の早期教育のほうが大切で、「知的教育は言葉が分かるようになってから、ゆっくりでよい」(『朝日新聞』九〇年四月二十八日付夕刊)ことがわかったと、真情を吐露するようになっている。

野村進『脳を知りたい!』新潮社2001年

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