カメリエレ
――イタリア人と結婚することの楽しさ、最大の困難は?
宮本 うちの夫についてしか答えられませんが(笑)、楽しいと思うのは、常にクリエイティブで何か新しいことを考えなければ気がすまないというパワーでしょうか。レストランのお客さんに「ご主人は噴火を続ける火山みたいな人ですね」と言われたくらいです。真夜中に夫がベッドの上に座っているので何をしているのかと思ったら、新しい料理を思いついたらしくひとりでブツブツ言っているのです。次にオープンしたいレストランのアイディアが浮かぶと、飛んできて身ぶり手ぶりで説明してくれます。
また、困難と言うには少し大げさですが、彼にとってものごとは、白か黒のどちらかだけ。だから、曖昧な言い回しの含む微妙な意味合いなどは理解に苦しむとみえて、はっきり言っておかないと、後で誤解を招く恐れがあります。
――ご主人のなさっていたカメリエレという仕事をするには、どのような修行が必要なのですか?
宮本 とにかく若いうちから由緒あるレストランで学ぶことが、なんと言ってもいちばんの強みです。夫は十三歳のときからレストランの仕事がしたくてたまらず、高校時代からバールで働いていたそうです。この本の中にも書いたミラノの老舗レストラン「サヴィーニ」でまさに理想的な修行時代を送ることができました。サービス業の専門学校もあるのですが、そこを卒業しているかどうかより、カメリエレとしていかに機転が利き、仕事(ワインや料理の知識、客への対応の仕方、シェフとの呼吸、語学などを含む)がうまくこなせるかどうかが問題になります。「実際に優れた軍馬として戦えるか」という言い方をするほどです。それは結局、何の世界に関しても同じでしょうけれど。
――ご自分の店を持つというのは大変なことだと思いますが、ご夫婦でどのような努力をなさったのでしょう?
宮本 レストラン業に拘束される時間は毎日平均十三時間くらいなので、夫はいつも不在でした。子供に手がかからなくなり、私もレストランの手伝いを始めてからは、いろいろな人々に出会い、忙しくてもはりのある生活になりましたが。夫はこの道三十年の大ベテランなので、仕事場での彼は私のボス。仕事に関しては、まったく口出ししないことにしています。レストランの内装や料理に関して相談されたときだけ、パートナーとしてアイディアを出しますけれど。努力というのか、いつも自分たちに言い聞かせている言葉があります。「もうたどり着いたとは思わないこと」
宮本映子(エッセイスト)/ミラノに、イタリア人に魅せられて『本の話2008・3』文藝春秋
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